オバケちゃん
オバケちゃん一家が人間の引き起こす様々な不条理に立ち向かうおはなしです。
ハイカラな雰囲気のあるこのおはなし群は、当初小薗江さんの挿絵も似合って多くの子供たちの心をつかみました。劇団前進座でミュージカル化され、青少年劇場で全国を回りました。
「おもいをこらす」というこのおはなしの核にあるものは、間違ったことには、間違っていると声を出したくても出せないときに、「おもいをこらし成就させていく」という、日本人独特のこころの世界があります。
さて、このおはなしができるきっかけは、本当に家の近くにオバケの森があったことから始まっています。冒険好きの私が友達とオバケの森と言われている森を探検します。すると、古い江戸時代のような、時代劇にでてくるような民家があり、隙間から覗くと囲炉裏があり、そばにはやはり時代劇にでてくるようなとっくりが転がっていて、今にもオバケが出てきそうで「きゃー」と言いながら、そのオバケ森を脱出したのでした。近くには、人魂の出るお墓もありました。父の運営する「太郎座」のある葛飾から練馬に引っ越した当時、夏には早朝から、かっこうが鳴き、近くには牛を飼っている農家もあり、モーという声が響く、畑だらけの長閑なところでした。
このオバケの森の話を私が母にして、妹がその話に興味をもったのか、「ぼく、オバケちゃんです。ねこによろしく。」とご挨拶をするようになり、そのなかで、母の作家としての「オバケちゃん」の世界が広がっていったように思います。
当時は、新興住宅や高層団地が増え、森や自然が失われる高度成長期の時代でもありました。「おもいをこらす」はそんな高度成長期に、大切な自然が失われていく事の畏怖を見事に描いていると思います。父も自然に対する畏怖の念を人間達が失った時に自然からの脅威を受けることになるのではないかと昭和40年頃には危惧していました。今年は伊勢、出雲と式年遷宮の年です。日本人の根底には自然を敬う心が息づいていると信じています。それが八百(やおろず)の神々の存在です。身の回りの神々に感謝をして日本人らしく謙虚に生きたいものです。
文 瀬川 たくみ